ニッチでも取っ付きやすく。
NOSE SHOPが進める
「香りの民主化」とは?

はじめましてPACEです Vol.04

NOSE SHOP 代表・中森友喜さん

ルクア イーレの「PACE」に出店するテナントのひとつ、「NOSE SHOP(以下、ノーズショップ)」は日本でも数少ない“ニッチフレグランス”の専門店。ニッチフレグランスとは、独創的なコンセプトや素材へのこだわりなど作り手の個性があふれる香水のこと。「香水界のオートクチュール」とも称され、世界的なムーブメントになっています。約600種類もの香水を扱うノーズショップの代表・中森さんが目指すのは「香りの民主化」だそう。「PACE」を起点にルクア大阪の変革を目指し、目下奮闘中の岡森&寅屋敷。お互いの「変わること」に対する考え方には、重なる部分がたくさんありました。

取材場所となったのは、東京・青山のオフィス。
ノーズショップを運営する株式会社BIOTOPE(ビオトープ)。その代表である中森友喜さんにお話を伺います。
(背中に「NOSE SHOP」のロゴが入ったTシャツを着て迎えてくださいました。カワイイデザイン!)
「最初に出店のお話をいただいたのは、2年半ほど前になりますかねえ」「そんなに経つんですね」と、振り返りトーク。

ルクア岡森:あれからうちも紆余曲折あって(笑)。今日はその構想についてお話させてください!

「怒り」から始まった変革。
でも、ベースにはリスペクトが不可欠だと気づいた。

まずは「『PACE』とは?」という話からスタート。
「このエリアを、そしてルクア大阪をどうしたいか? と考えるうえで、大事にしてきた精神が『モノが主役の場から人が主役の場へ』。この精神をずっと持ち、考え続けていきたいという思いで、自然と人が主語になる『PACE』という言葉を選びました」

ルクア岡森:あれからうちも紆余曲折あって(笑)。今日はその構想についてお話させてください!

中森:「PACE」、流動的な雰囲気を感じる言葉ですね。

ルクア岡森:ルクア大阪も含め、既存の売り場の多くは「何を売っているか」が軸になっています。そうではなくて「それぞれの時間を思うままのペースで過ごせる場」であることを第一に目指そうと。

「だからこそ、一定のイメージを設けず、進化し続ける空間になると思うんです。なので流動的という感覚はすごくしっくりきますね」
「ルクア大阪のあり方を変革したい」という岡森の言葉に中森さんからは……
「正直、僕らから見るとルクアさんは“勝ち続けてきた側”に見える。それでもまだ変わろうとする姿勢にはシンパシーを感じます」と力強い頷きが。

中森:業界の既存ルールを壊したい気持ちは、僕らも常日頃から抱いていて。香りの文化って取っ付きづらく思われるんですが、実はもっと楽しいものなんですよ! その楽しさを広めることで、香りの文化に人間性を取り戻していきたい

にこやかな表情だが、変革のスタート地点は「怒りのエネルギー」だったとか。

中森:「なんでこうじゃないの?」っていう怒りが、情熱の源だったんですが(笑)、業界の先輩方のお話を聞くうちに、彼ら彼女らのやってきたことの偉大さを今まで以上により感じるようになりました。過去へのリスペクトの上に自分たちの術を築き、それを継続させて初めて「文化を変えた」といえるんじゃないかと。壊すだけじゃダメだ、継続していかないと文化にならないと気がついたんですね。

中森さんのお話に、「PACE」に懸ける想いとの重なりを感じた岡森。

ルクア岡森:我々も全く同じ想いで取り組んでいます。続けてきたことを全否定するのではなく、これまでのやり方から学んだことをふまえて、新しいルクアを築いていきたいですね。

“香水ガチャ”に“香水バーチャル世界旅行”。
ユニークな企画で、香り文化を日常に近づける。

ルクア岡森:ノーズショップさんのこれまでのアプローチからは、お客様のことを本当に深く考えていらっしゃることが伝わってきますよね。

たとえば、人気コンテンツである“香水ガチャ”や“香水キャッチャー”、世界各国の土地から生まれた香水のムエットを届ける“香水バーチャル世界旅行”……これらのエキサイティングな企画が生まれた背景とは?

中森:香水業界では販促品として香水を配る習慣があるのですが、これをカプセルトイマシーンの商品にしてみたらどうかと思いついたんです。まず香水を買ってみるという体験を気軽に楽しんでもらおうと。たった数百円でも、香水を買ったことが無い人が香水を買う行為に至る。その一歩は大きいですよね。なので、販促品として配布していたものにあえて値段をつけたんです。

ルクア岡森:「サンプル配布」だと普通ですけど、「ガチャ」と言われると試してみたくなりますよね。お客様が参加する余地を残す体験設計は、まさに「PACE」が目指すところです。

以前、別のインタビューで「香りの民主化を目指す」とお話していた中森さん。

中森:「香りの民主化」の発想は、香りづくりが一般的な趣味として認識されるくらいの世の中になってほしいという想いが根っこにあります。我々が扱うのは大手メーカーの商品ではなく、調香師、つまり香りのクリエイターの手から生まれたフレグランス。お客様自身が作り手になることで、ニッチフレグランスの素晴らしさに、より敏感に気づいていただけると思います。だから、ノーズショップでは、香りに関する情報を発信したり、素材を手に取りやすい環境づくりを推し進めたりしているんです。

中森さんから「たとえば、“ムスク”と聞いて、どんな素材なのか、すぐに思い浮かびますか?」と聞かれたふたり。「全然わからない……」と顔を見合わせる。

中森:今はまだ多くの人が、香水の香りがどのように作られるものか思い描けない状況だと思います。同時に、“良い香り”と“悪い香り”といって、香りはよく二元論で語られがち。実際は、そのなかに非常に細かいグラデーションが存在しているんです。香りに意識が向かうようになれば、たとえばご飯を口に運んだときのトップノート(最初に感じる香り)から、飲み込んだときの風味の変化まで楽しめるようになる。僕なんか、コーンポタージュひとつ飲むのにすごく時間がかかっていますよ(笑)。

ルクア岡森:そういえば、以前「私、人より嗅覚が鈍いという自覚があって、香りの変化や違いを感じ取れる気がしない」とお伝えしたら、「嗅覚って鍛えられるんですよ」とお話しくださったのがとても衝撃でした。

中森:そんな話もしましたね(笑)。僕たちも最初から香りを嗅ぎ分けられていたわけでないんです。視覚でいうと、粗いモザイクのようなところからスタートして、どんどん解像度が上がって鮮明に見えてくるようなイメージです。

社内で開いている「香りの勉強会」では、ひとつの香りを全員で嗅ぎ、それぞれに感じたイメージを言語化してシェアする。香りに対する解像度を上げていく。

ルクア岡森:「香りの勉強会」をお客様向けのワークショップとしてイベント化もしたいとおっしゃっていましたよね。今回ご出店いただいて、ノーズショップさんでその体験をするのをとても楽しみにしています。

中森:そうやって色んな香りを嗅ぎ分けられるようになると、食事では一品一品がよりおいしく楽しめたり、散歩では、ふと感じる花の香りを楽しめたり、本当に人生が豊かになる、という感覚です。ぜひみなさんにもその感覚を体験してもらいたいと思っています。

ルクア岡森嗅覚に対する意識を研ぎ澄ませることで世界の感じ方が変わっていくってとても興味深いです。自社メディア『NOSE SHOPマガジン』にも、ニッチフレグランスの魅力を広く発信する意図が込められているのでしょうか。

『NOSE SHOPマガジン』では、ニッチフレグランスの作り手であるクリエイターを、彼らの考え方や生き方を含めて丁寧に紹介。店頭では伝えきれない詳細な情報を届けることがこういったメディアの役割だと、中森さんは考えている。

中森:そうですね。そもそも、なぜノーズショップがニッチフレグランスを取り扱っているかというと、まず一番に我々がフレグランスのクリエイター一人ひとりに魅力を感じていて、彼らを紹介したいからなんですね。

「かっこいい考え方のもと自分らしく生きる人たちが作る香水って、お守りみたいに思えませんか?」という中森さんの言葉にハッとする。「香りだけではなく、考え方や生き方まで纏ったような気分になれそう」。

中森:店頭に立つスタッフそれぞれの言葉も大切にしたいですね。どんな気持ちでその香りを紹介しているのか、自分の言葉で語ることで「香りって自由に捉えて、語っていいんだ」と感じてほしい。そうすることで、香り文化が日常に織り込まれていくのかなと。

迷う気持ちに寄り添い、迷う時間を一緒に楽しみたい。

既存の店舗の広さは10坪ほど。「PACE」にオープンする店舗はより広い区画のため、「これまでご紹介できずにいた香りも取り扱うことができます。ゆくゆくは、1000種類ほど取り扱う予定なので、ニッチフレグランスが世界でいちばん豊富に揃うショップになるかと」と話す中森さん。

ルクア岡森:1000種類! 香りの種類が多ければ多いほど、迷う余地も増えそうですね。

中森:これだという香りを選ぶうえで、迷う時間も楽しみのひとつと捉えてもらえたらうれしいです! お客様の迷う気持ちに寄り添うのが我々スタッフの使命。楽しい時間をご一緒させていただければと思っています!

これまで、香りを言語化するAIシステムなど、テクノロジーを導入することで、迷いながらお好みを探る、迷う時間をより楽しくするための提案も。「期間限定の導入ではありましたが、迷わずに購入したい方もいらっしゃいますし、今後もお一人ずつのペースを大切に、答えを見つけ出すお手伝いをさせていただけたら」。

ルクア岡森:未知の香りや自分の好みを発見できると思うと、迷うことの価値が見えてきます。

中森:メインストリームではない香水を取り揃えているからこそ、いい意味で違和感のある存在、ペースに変化を与えられる存在になれたらうれしいです。

ルクア大阪・寅屋敷のインタビュー後記:
インタビュー中の「香りに意識を向けて、嗅覚を鍛えることで、いつものごはんがおいしくなる」という言葉が、食いしん坊の私にはとても刺さりました。ルクア大阪店でノーズショップと出会い、たくさんのニッチフレグランスから自分の好きな香りを知り、好きな調香師さんを知って、調香師を目指す人が増えて、香りクリエイターが増えたら……と妄想が膨らみますね。お店には香水ガチャを置くことを計画されているようですので、ぜひ香水ガチャを回しに来てみてください。そして、みなさまの好みの香りを見つかったらいいな~と思います。

Edit:Kawai Fuyuho
Photo:Miura Masaru
Text:Sugawara Shiki
Edit Support:Minami Ayumi・Kubota Leia

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