お店は「面白い生き方」を
見つける場所でもある。

はじめましてPACEです Vol.07

ニュースタア 代表・渡部宏さん

この秋、ルクア イーレ4Fに誕生する新エリア「PACE(ペース)」。そこへ軒を連ねるテナント「ミーツニュースタア」と「ニュースタアギャラリー」。都会的でメロウなポップさと、いい意味で力の抜けたファッション性で注目を集めるセレクトショップです。代表の渡部宏さんが「新しいスタアと未来をつくる会社」と語るように、「ニュースタア」エリアではどんなお店にしたい? 取材をお願いしたところ、話は意外にも渡部さんの波乱万丈な過去のお話に……。

取材場所となった「ニュースタア​ギャラリー」は、
東京メトロの中野富士見町駅より徒歩5分。ルクアの岡森と寅屋敷が取材に伺いました。
レトロなタイルが美しい渋いビルの2階へ上がると、
ワッサワサの緑とともに、
出迎えてくれた、ニュースタア代表の渡部さん。
「渡部さんのかぶってる帽子がかわいい」と反応する寅屋敷。
「ニュースタア」の常連作家・キムキムさん(@kimukimu324)作のチューリップが刺繍された帽子「tulip cap」だそう。
取材は、ルクア イーレ4Fの新たなエリア「PACE」をプレゼンする形式で進行。
「これまでのルクアをぶっ壊す、ぐらいの意気込みです」という衝撃的な発言からインタビューははじまる……。

ルクア岡森:ついに名称やコンセプトが決まったので、そのご報告と、面白いことをもっと一緒に画策したいと思って、今日はお店にお伺いさせていただきました。

渡部:公開企画会議ですね。よろしくお願いします!

お客様のペースに変化を起こせるようなお店でありたい。

ルクア岡森:よろしくお願いします! 今回新しいエリアをどういう空間にするか考えていくうえで、「モノを主役にするのではなく、人を主役にしたい」という思いを持っています。モノを買って終わり、じゃなくて、“買うことで何かがはじまる”。そんなきっかけをつくれたらいいなと。

渡部:なるほど。僕自身、お店という空間は“モノを買う”という目的だけでなく、面白い生き方を見つける場であることが一番ワクワクするなと思っているので、すごく共感しています。

ルクア岡森:それぞれの暮らしや人生があって、一人ひとりがありのままでいいし、そんな方々に寄り添っていくルクア大阪でありたい。今回、そういう思いを表すコンセプトとして「PACE」という言葉を選びました。

渡部:自分のペースや人のペースがあって、それらが交わることでさらにペースが変化していく……そんな広がりが感じられる言葉ですね。今は商業施設全体を見渡してみても、通信販売サイトのように“いかに最適化してモノを買っていただくか”という、モノを主役にした発想になっていることが多いように思うんです。僕としては、思いもよらないモノとの出会いと発見をもたらすことによって、お客様のペースに変化を起こすことこそお店の役割だと考えているんです。なので、“人が主役の場”を目指すルクアさんが「PACE」というキーワードを掲げられているのは凄く腑に落ちました。

「リアルに鳥肌、立ちました〜」と応答してくれる渡部さん。
セレクトされているクリエイターは、
この滲み出る人柄に惹きつけられてきたのだな〜と取材陣一同関心。

ルクア岡森:そう言ってもらえてうれしいです。もう一歩踏み込んだ話をすると、実はお店のペースも色々あっていいよね、という思いもあるんです。お店独自のペースをもっと大事にして、それをお客様にも楽しんでもらう、みたいな。ニュースタアさんは様々なクリエイターさんにフォーカスを当てた、独自のペースがあるお店ですよね。どのようにクリエイターさんや商品を選んでいらっしゃるんですか?

渡部:そうですね。例えば「これ売れそうだな」と、モノを主役に据えた商品選びをしてしまうといざ売れなかったときに路頭に迷ってしまう。ニュースタアでは僕やバイヤーが「この作品のクリエイターさまと一緒に仕事したい」と感じるかどうかを大切にしています

店内にあったiriki(@iri_ki)さんの作品。「ご夫婦と旦那さんのお父さんの3人で活動されているクリエイターさまなんです。ああでもない、こうでもないと、ご家族でアイデアを出し合いながら作っているような温かみが、作品からも伝わりますよね」と渡部さん。

渡部:「PACE」への出店では、新しい切り口のポップアップショップの展開も考えているんです。「15日に1人」のスケジュールで、クリエイターさまに限定せず、未来をつくっていくあらゆる人たちの活動を紹介しながら、商品や作品の販売はもちろん、コラボレーションもしますし、お客様参加型のワークショップなんかも仕掛けていくイメージです。「スタアのペース」みたいな名前で、「PACE」エリアの顔になったらいいなと妄想中です。

ルクア岡森:「スタアのペース」! いいですね! 商品や作品をきっかけに、その人たちの世界観や価値観を知ると、買った作品により愛着がわいたり、作品以外の取り組みにも新たに興味を持ったりして、日常の楽しみが増える気がします。まさに、“お客様のペースに変化を起こす”お店ですね。

買うことをゴールにはしたくない。
多様なペースが存在する場づくりを。

渡部:モノが中心になると商業施設には暗黙のルールが生まれると思うんです。「来たからには買わないといけない」というような強迫観念を感じるというか。買うだけではないところにゴールを置きたいわけですよね。

ルクア岡森:はい。ネットでなんでも買える時代になったからこそ、リアルな場はその強みを活かして、商品の売り買いだけじゃなくてもっと楽しいことも仕掛けていけるんじゃないかと。どうすれば「買わないといけない」と感じてしまう怖さを払拭できるのかと悩むなかで、このエリアでは、お客様も、お店も、それぞれ思い思いのペースで過ごせる場にしてみようと考えました。歩く、止まる、選ぶ、買う以外に、もっと動作を増やせたらいいのかな、と。

渡部:まさに、ニュースタアもそういう空間を目指しています。なので、今回の「PACE」のお店には、色んな工夫を詰め込んでみる予定です。

ニュースタアは、ルクア イーレの2Fに既に出店済み。店舗のイメージは“ハイパーキオスク”だったそうだが、
今回新たに出店する4Fの店舗は、「スタアのペース」(イベントスペース)、アートギャラリー、ファッション、インテリア、グリーンなど、様々なテーマで構成されている。
内装は、テーマごとにおもしろい取り組みをしているアーティストやクリエイターとのコラボが決定しており、多様かつ自由なイメージ。「インパクトは重視してます」と渡部さん。

ルクア岡森:実は、私たちのペースも変えてみたいと思っています。普段はバックヤードにいる我々が表に出てお客様の声を直接お聞きすれば、生のニーズや空気感を把握することができるかな、と。

「バックヤードにこもるのではなくて、顔が見える場を」と、将来的に新エリア「PACE」で実現したいと考えている作業スペース兼案内所。不定期ながらここにルクアのスタッフが常駐する構想。「実現したら、みなさん気兼ねなくお立ち寄りください」と寅屋敷。

渡部:フロアに立つと、きっと色んなお問い合わせがあると思うので、そこを通じて新たな発想に膨らませていけるんじゃないかと思います。僕自身、「お店は生き物だ」という考えをいつも念頭に置きながら、実際にお店に立つことを大切にしています。お客様の希望は一定で一様ではないですから、お店は生き物のようにいつも変化し続けていく必要があるし、そうすることによって一歩先を進む面白い場になっていけるんじゃないかと考えていて。

いつになっても新卒1年生。
フレッシュな気持ちで、自由な発想をし続ける。

ルクア岡森:渡部さんはいつも店頭に立っておられますよね。素朴な質問なのですが、その大切さを感じられるにあたり、何かきっかけがあったのでしょうか?

渡部:明確にありますね。僕は20代の頃に独立して、ブランドやデザイン会社を立ち上げたりしていたんですが、10年前にスポンサーさんがついて自分達の店を出し始めたとたん、すっごい赤字になってしまって。その後も大赤字が続き、ついにスポンサーさんも続けられなくなり、自分でやることになったのですが......当時の僕は本当にナメ腐った態度で(笑)。まったく店に立たなかったし、売れなかったら全部スタッフのせいにしていたんですよ。

ルクア岡森:そんな時期があったなんて、今では全く想像がつかないです。

渡部:その頃の僕はデザイナー風を吹かせるばかりで、とにかくずっと事務所からスタッフに電話するだけだったんです。なので当然、スタッフにも信用されないし、みんな離れていってしまった。資金的にもどん底の時期を迎えていた時、ある商業施設でポップアップの話をいただき、一人で全国行脚をしたんです。それまで人に任せっきりだったので、レジの打ち方すら心もとない状況でした(笑)。でも、そういう状況になって初めて「なんで自分はこの仕事をしてるんだろう」と考えるようになり、やっぱり自分はデザイナーとして世の中を面白くして、人の人生に新たな可能性をつくっていくようなことがやりたいんだなと分かったんです。

「理想いっぱいの新卒1年目のような気持ちを大事にしたい」という渡部さん。自らお店に立ち、お客様の心の動きを見るのも、自身のペースを保つ方法なのだそう。

ルクア岡森:なんだかハッとさせられました。

渡部:やっぱり、いつになっても新鮮な気持ちを持ち続けないといけないんですよね。その体験から、ニュースタアでは自分自身にも社員にも“新卒のような気持ちをずっと継続させる”ということを求めています。何事もプロ目線でいすぎると自由な発想が出てこなくなってしまうし、お客様と同じ目線でいることも難しくなってしまう。理想いっぱいの新卒1年目のようにクリエイティブな精神を大事にしようと。

ルクア岡森:ご自身の経験から「お店は生き物だ」という想いや、現在のニュースタアのあり方へと繋がっているわけですね。

渡部:そうなんです。失敗を通じて、それまでの行いを反省することができたし、自分がやりたいことにも気づけたと思います。売上のデータも重要なんですけれど、やっぱり店に立って、お客様の心の動きと自分達がやっていることが合っているかどうかということを常に問いながら、日々調整し続けていくことの重要性を学びました。

ルクア岡森:お店に立つ、ということもご自身のペースを保つうえでひとつの鍵となるのですね。それ以外に、ペースを保つ方法はありますか?

渡部意識的にペースを変えていくことが、実はペースを保つ秘訣だったりするのかなと思います。

ルクア岡森:一般的には「ペースを乱される」とか言いますが、あえてペースを変えていくんですね。

渡部:僕の場合、アートを買うことも好きなので、様々な作品を置いて自宅に変化をもたらし続けることもその一環です。でも、あまりに多くの作品を買ってしまって自宅に置ききれないので、最近では社内でアートのサブスクリプションを始めて、社員から要望があればそれぞれの人となりや家の内装を見てアート作品を貸出しするサービスを趣味で始めました。

ルクア岡森:すごく面白い試みですね!

取材当日、ギャラリーではキムキムさんの個展「PIEN」が開催されていた。「泣き虫」のみを描いたイラストレーションの作品たち。涙の理由もそれぞれ、想像が膨らむ。「PACE」にできる「ミーツ ニュースタア」でも、アートギャラリーが併設される予定。

渡部:渡部がやるサブスクリプションなので、“ワタスクリプション”と呼んでいます(笑)。社員の子たちもアートを飾ってみないと、それらを買う意義や価値ってピンとこないと思うんです。そこを実感してもらうために始めたことなのですが、何より僕自身、自分だけではなく他の人の発想に触れることの重要さに改めて気づきました。やっぱり、他の人のペースに巻き込まれたり、またこちらから新しいペースを起こしていくことって、人間としての新鮮さをキープし続けるポイントなんですよね。

ルクア岡森:ぜひ新しいフロアにも、変化を巻き起こしてください!

渡部:ええ、新しいペースを生み出す存在でありたいですね。そのためにも、ルクアや各店と情報共有しながらフレキシブルに動き続ければ、「PACE」というフロア全体が生き物のように活気づいた空間になるんじゃないかなと思っています。

最後に、展示されていたキムキムさん作の「顔ハメ看板」でツーショット。渡部さん、ありがとうございました!

ルクア大阪・寅屋敷のインタビュー後記:
私たちと同じ目線になってくれる渡部さんのお人柄と、私たちの想いに共感してくれる部分がとても印象的でした。ルクア大阪店は、渡部さんが繋がっている多種多様なクリエイターの方たちとコラボして、日々移り変わっていくお店、日々新しい発見があるお店を計画中のようです。図面を見て話を聞いているとワクワクします。ぜひ、皆さんも渡部さんのペースに巻き込まれにきてください。

Edit:Mitsukawa Takahiro
Photo:Miura Masaru
Text:Sugawara Shiki
Edit Support:Minami Ayumi・Kubota Leia

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