コーヒーをきっかけに、
自分の「好き」を見つける。

はじめましてPACEです Vol.08

PATHFINDER XNOBU 代表・下山修正さん

この秋、ルクア イーレの4階にできる新エリア「PACE(ペース)」。そこに出店するPATHFINDER XNOBU(パスファインダー タイムスノブ 以下、パスファインダー)の代表・下山さんに取材しました。下山さんはコーヒーの聖地といわれるオーストラリアのメルボルンで修業を積み、過去に2回ラテアート世界チャンピオンの座に輝いたバリスタ。スクールを開講してバリスタを育てることにも力をいれています。そんな確かな腕のスタッフが作るカスタム自由なメルボルンスタイルのコーヒー。一言で言い表せないパスファインダーの魅力をお客様に感じ取ってもらうにはどうすればいいのか? 一緒に考えました。

取材場所となった「パスファインダー タイムスノブ」は、大阪メトロ谷町線 「中崎町駅」1番出口より徒歩2分。
白基調の建物に植物が映える、お洒落なお店にお邪魔します。
すると、「来ていただいたお礼に、コーヒーをいれますね」と一同を歓迎してくれた代表・下山さん。お言葉に甘えて、ご馳走になることに。
「どれがいいですか?」「苦いのは嫌?」「ハチミツは大丈夫?」と、
一人ひとりの好みを巧みに引き出し、次々にコーヒーを淹れていく。
下山さんは、カフェの聖地メルボルンで7年間修業を積み、ラテアートの世界大会で2度も優勝したバリスタ。
ものの数秒で描かれる芸術作品に、一同思わず「おお〜!」と声が漏れる。
サーブされたチョコレートミルクに、寅屋敷も思わずうっとり。
一同が下山さんの魅力に引き込まれたところで取材スタート。

ルクア岡森:いつもいただいてしまってすいません。と言いながら、打ち合わせに来るたびに、今日はどんな種類にしようか楽しみにしています(笑)。

下山:喜んでいただけてこちらも嬉しいです(笑)。

ルクア岡森:さっそくですが、今回ご出店いただくルクア イーレ4階の新フロアについて、お店のあり方や空間全体でできることなど、一緒に考えていきたいなと思っています。

選択肢がたくさんあることで
「自分の好きな味」を考えてほしいんです。

取材はルクアのプレゼンから始まる。「『PACE』でお客様がさまざまな体験をすることで『自分の“好き”とはなにか』について考えてほしいんです」と語る岡森に、
シンパシーを感じた様子の下山さん。

下山:うちの話で言うと、お店でバリスタを育てるスクールもしているんですが、生徒さんにはなによりも「自分の道を見つけてほしい」という思いがあって。たとえばバリスタというスキルをもつことで、海外でお金を稼いで生活することができる。その経験を通して、本当にその人のやりたいことを実現してほしいんです。

ルクア岡森:まさに先ほどの「自分の好きを見つける」という話と近いですね。現時点で良いので、新店をどのように展開されるのかお聞きしたいです。パスファインダーさんでもっとも特徴的なのが、“選ぶ”ことですよね。元々、下山さんが長くいらっしゃったメルボルンのカフェ文化を継承されているのだと思いますが。

下山:メニューを詳細にカスタムできるカフェというのが、ほかにはないところだと思うので足を運ばれたお客様には、ぜひいろいろと選んで試してほしいと思っています。それらの体験が「自分の本当に好きな味ってなんだろう」と考えるきっかけになればと。せっかく来られたお客様には、漫然とコーヒーを飲むのではなく、自分の口に入れるものですから、その一つひとつにこだわりをもってほしいんです。

メルボルンでは自分なりのオーダーをするのが基本。
「『低脂肪ミルクで熱め、泡多めのカプチーノ』とか、『砂糖は5杯入れて混ぜずにちょうだい』とか。バリスタはリピーターのお客様のメニューをすべて頭にいれておかなくてはいけないんです」と修業時代を振り返る。

ルクア岡森:それは、なかなかスパルタな世界ですね(笑)。それだけカフェでコーヒーを飲むことが生活に根づいているということですよね。

下山:メルボルンの人たちにとって、毎朝お店に行ってコーヒーを頼み、新聞を読みながらスタッフと話すというのはルーティンになっていると思います。

下山さんにとってのルーティンは、毎朝自分で淹れたコーヒーを飲むこと。
その日の感覚を測って調整することが、自分のペースを保つことにつながっているのだそう。

下山:メルボルン時代は練習も含めて1ヶ月1万杯は淹れていて。泡を1gずつ変えたり、温度を1度ずつあげてみたり、いろいろと研究しました。なのでマシーンの音を聞くだけで、泡が多いか少ないかわかります(笑)。

ルクア岡森:親子で来られるお客様も多いとお聞きしました。お子さんの常連さんもいらっしゃるんですよね。

下山:子どもでも「アイスを2倍入れて」とか「ミルクは常温で」とか、細かく注文しますよ。小さい頃から自分で選択するという習慣を身につけているんです。そういう小さな選択が練習になって、自分で自分の人生を選ぶことにつながっていくと思うんです。

「『カスタムすると面倒くさがられそう』とか、細かく注文することに抵抗があって……」と、顔を曇らせる寅屋敷。

下山:日本だと、そういう考えをもっている人は多いですよね。そこは僕もどうしたら抵抗なく選んでもらえるか、かなり悩んでいるところで……。エゴや押し付けにはなりたくないんです。

ここで、岡森からあるアイデアが。
「カスタムを相談するという体験がセットになっているメニューはどうでしょう? そもそも自分の好みが分からないというのもある気がして」

ルクア岡森:以前、私が「ソイラテが苦手なんです」と何気なくお話ししたことがあったじゃないですか。そしたら下山さんが「あそこのラテは深煎りだからソイと​​合わせると口の中でもったりした触感になるんですよ。岡森さんはそれが苦手なのかも。そうであればオーツミルクで注文したら口に合うと思う。もしソイが良いならチョコと合わせるとおいしいですよ」と教えてくださって。あれに本当に感動したんですよ。10年来のモヤモヤが晴れ、「道がひらけた!」みたいな(笑)。お客様にもそんな経験をぜひしてほしいです。

豆やエスプレッソの量、ミルクの種類を変更するなど、パスファインダーでは自由にカスタム可能。

下山:ちょうど、そういうワークショップも考えていて。普段とりあえずでコーヒーを飲んでいる人に、「じゃあ深煎りと酸味があるやつと飲み比べてみて、どう感じるかやってみましょう」とか「ラテはミルクが多くて苦手」という人には、「ショット増やしたら良いんですよ」とか、実際に飲み比べながらアドバイスしていくという。日々の生活とコーヒーの関係を見直すために、対話をしていくようなイメージですかね。

「なにより不定期であっても下山さんがルクア内の店舗に立っているというのがすごく財産になると思っていて」という岡森の言葉に、頷く一同と照れる下山さん。

ルクア岡森:ラテアート世界チャンピオンでいらっしゃるというすごさはもちろん、その人となりに皆さん引き込まれていくというか。同じ中崎町で店舗を構える人気の菓子店「パティスリーラヴィルリエ」さんからもお誘いがあって、一緒にお仕事されてたりしますよね。

「パティスリーラヴィルリエ」の
バスクチーズケーキ(※フルーツは季節により変更)。
「いつか一緒に仕事をやろうとずっと言ってくださっていて、コラボが実現しました。『PACE』でも提供予定です」。

ルクア岡森:「PACE」でパスファインダーさんの向かいに入るニュースタアギャラリーさんも「パスファインダーさんでコーヒーを買って、ぜひうちのスペースで飲んでほしい」とおっしゃっていて。グリーンがたくさん置いてある、ゆっくり座れるスペースをちょうど前においてくださるそうです。

ニュースタアギャラリーではアート作品の展示販売を行う。
購入を決めるまでに、家のレイアウトを考えたりと悩まれる時間を、
ぜひコーヒーを飲みながらじっくり過ごしてほしいという考えで店舗レイアウトを設計。

下山:いいんですか。それはすごくありがたいですね。

ルクア岡森:お店の垣根を超えて、力が重なっていくのが感じられてすごく嬉しいお話だなと。

目指すのは、大阪の中心地にある「心の休憩所」。

ルクア岡森:そういえば、こちらの店舗以外の活動もされているとお聞きしました。

下山:長野県のスキー場のリフトのそばにある使わなくなった蕎麦屋さんをそのままカフェにして冬季だけオープンしています。そこに東京の方を呼んで働いてもらって、結果的に住み着くことになるという流れをつくりたくて。雇用を生み出すことで、人口流出という問題に少しでもアクションできればと思っています。

ルクア岡森:ただのコーヒーショップじゃないというか、そういった考えをもつ方のお店だというのも、ひとつの魅力につながっていくのではと思いますね。同じような事柄に関心をもつお客様が集まってきたりして。

「自分ができることで、日本にある問題を少しでも解決できないかなと思っているんです」と語る下山さん。

下山:大阪の中心地で、僕に何ができるかと考えたら、心の部分でお客様に寄り添うことかなと。たとえばパスファインダーに来てちょっと話すことで、自分を振り返る時間をもてたり、ほっと安心できたり。心の休憩所になれたらと思っています。選ぶという行為についても、それがきっかけで自分が関わった方々が、自分らしい生き方を選択してくれたら良いなと思います

ルクアスタッフにも下山さんのファンは多い。

ルクア岡森:「PACE」ではまさに、人と人とがつながることで生まれるものを大事にしたいなと思っていて。たとえばルクアのスタッフがパスファインダーさんの常連になって、お客様との会話の中で自然とおすすめするようになる、みたいな流れが生まれたら良いなと。そういうことの連続で、お客様がルクアへ足を運ぶことが楽しみになる、それが理想だなと考えています。

下山:そうですね。いろいろ試しながら、最適解を見つけていきたいです。

ついつい話し込んでしまい、気付けばすっかり暗くなった大阪の街。
下山さんとの話を終え、「PACE」が心地良い時間を提供できる場になるという手応えを感じ、
岡森と寅屋敷はお店をあとにした。

ルクア大阪・寅屋敷のインタビュー後記:
インタビュー中、取材スタッフ全員に気遣いをしてくださった下山さん。お店に流れる優しい空気は、下山さんの人柄が生み出しているんだなと感じました。
メルボルン時代のお客様の話を聞いているとみんな自由で、自分の好みを理解している人ばかりで、日本との違いに驚きました。自分の好みがわからなかったり、選ぶことやカスタマイズすることに慣れていない私のようなひとは、いきなりオーダーをするのはすこしハードルが高いですよね。まずは美味しいコーヒーを飲んで心の休憩所として、お店に来てみてください。そして、徐々にコーヒーをカスタマイズする文化が、ルクア大阪から日本中へ広がると嬉しいです。

Edit:Hasegawa Mayu
Photo:Watanabe Yoshiko
Text:Hirata Yufuko
Edit Support:Minami Ayumi・Kubota Leia

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